研究内容

材料工学研究室では,マクロおよびミクロの立場から,高機能・高品質を引き出すための材料加工プロセスの開発およびそれによる先端機能材料・構造材料の創製,また,材料の相変態挙動および相変態による材料の強靱化等に関する基礎研究および応用研究を行っています.特に,固体や粉体材料の成形加工における変形,流動,反応および相変態を制御し,熱電変換材料,燃料電池材料,高性能セラミック基複合材料,高強度金属基および金属間化合物基複合材料,内・外層に異なる環境にさらされるクラッド複合材料,新型インフルエンザや鳥インフルエンザに対して抗ウイルス特性を有する新規セラミック材料等様々な環境調和型材料に関する研究・開発に取り込んでいます.主な研究テーマは以下の通りであります.

(1) 廃熱発電を目指した高性能熱電変換材料の創製

 自動車排気熱や産業分野から排出されている未利用廃熱を電力に変換するために,緻密・健全かつ高熱電性能を有するZn4Sb3化合物の「反応−押出しプロセス」を開発しています.ZnとSbの素粉末から,熱間押出しの一工程のみでZn4Sb3化合物の合成,形状付与および緻密化を同時に実現することに成功しました.従来の技術に比べ,押出し成形したZn4Sb3バルク材料の熱電性質が大幅に向上し,いままでの同材料の最高熱電性能指数に達しています.現在,様々なナノ粒子・ウィスカー・繊維等強化第二相を添加することによるZn4Sb3バルク材料の機械的性質や熱電性質に及ぼす影響を調べています.なお,CoSb3系スクッテルダイト熱電材料の成形加工についても研究を展開しています.
反応押出
  反応−押出しプロセスの模式図

(2) 熱電冷却素子としてのBi2Te3系バルク材料の性能向上

 Bi2Te3系半導体化合物は室温近傍で良好な熱電性質を有するため,小型恒温・冷却装置等に広く利用されています.しかしながら,一方向凝固やホットプレス等従来の加工技術で作製した材料の熱電性質と機械的性質の両立が困難で,また,歩留まりが悪いといった問題点があります.本研究では,金属粉末を出発原料として用い,メカニカルアロイング(MA)および熱間押出しプロセスによりナノ結晶構造および集合組織を導入し,Bi2Te3系バルク材料の熱電性質のさらなる向上を図っています.

(3) 新規酸化物/酸化物セラミック基複合材料の創製

 発電ガスタービン等,高温かつ酸化雰囲気のような過酷な環境で適用可能な高温構造用材料として,酸化雰囲気での耐久性に優れた酸化物/酸化物セラミック基複合材料が期待されています.本研究では,新しい手法として,粉末間の反応(例えば,Al2O3粉末とBaZrO3粉末)を利用し,繊維のような棒状第二相粒子(Ba-β-Al2O3)をAl2O3のマトリックスに導入するIn-situ合成法を検討しています.さらに,部分安定化ジルコニアの相変態機構を利用し,マルチ靱化機構の導入による破壊靱性の向上に関する研究を展開しています.
電顕組織
  合成したAl2O3基複合材料の組織

(4) 燃料電池材料の同時成形法の開発および高性能化

 固体酸化物型燃料電池における燃料極/電解質複層パイプ(Ni-YSZ/YSZ)の押出し同時成形プロセスを立証・開発しました.複数の粉末−バインダー混合体をビレットとし,1回の押出しで健全な押出し製品が成形でき,焼結後,接合良好な緻密な電解質および多孔質の燃料極が得られます.なお,YSZ (Y2O3安定化ジルコニア)のマトリックスにNiナノ粒子を導入し,また,粗粒化したYSZを添加することにより組織を制御し,Niのネットワークを発達させ,電極材料の高性能化を目指しています.
2層パイプ
  YSZ/NiO-YSZ二層パイプの外観写真

(5) In-situ加工プロセスによる金属基および金属間化合物基複合材料の合成

本研究は,原料粉末間に生じる自発的反応を利用し,微細なセラミック粒子をAlやTiAlに均一に分散した複合材料の開発を図ったものです.従来の粉末冶金や鋳造法と比べ,合成した粒子のサイズは極めて小さく(サブミクロンオーダー),粒子の体積率を上げることが簡単になります.その結果,合成した複合材料の機械的性質,特に強度やヤング率を大幅に向上することが期待できます.
組織写真
  In-situ合成したAl基複合材料の組織

(6) ジルコニアのマルテンサイト相変態挙動

マルテンサイト変態は古くから「鋼の焼入れ硬化」に利用されてきました.ジルコニアセラミックについても,相変態による強靱化が30年以上前に発見されましたが,相変態挙動やメカニズムがまだ十分理解されていない現状です.ここでは,セラミックの強靱化メカニズムの解明を目指すとともに,ジルコニアにおけるマルテンサイト変態の本質を探る研究を行っています.
マルテンサイト組織

(7) マルテンサイト変態のエンブリオの解明

ジルコニアセラミックスのマルテンサイト変態に関しては,その発生機構に関する知見がまだ不足しています.それは物質にもともと存在している,変態しやすい場所(エンブリオ)の特定が難しいためです.そこで本研究室では,ジルコニアのマルテンサイト変態を支配している核生成機構を明らかにするため,このエンブリオの“正体”を様々なアプローチにより解明することを目指します.当研究室では現在,結晶粒の熱膨張係数の方位差に起因する局所的熱応力(下図)に注目しており,これがエンブリオの候補になりうるかを検証しています.
応力解析例

(8) 正方晶ジルコニア多結晶体における価数変化を伴う陽イオンの添加効果

水素などの還元雰囲気によりイオン価数に変化を生じる安定化剤(CeO2など)を添加した正方晶ジルコニア多結晶体(TZP)は比較的低温(〜300℃)において酸化します.そこでこの酸化条件を制御することにより,母相の酸化状態にマクロサイズ(〜数十 nm)の不均一性を持たせることが出来れば,この不均一性が高靱化に寄与すると考えられます.現在,酸素空孔制御するための最適熱処理条件を探索し,新しい材料靱化手法としての可能性を探っています.

(9) 常温セラミックコーティングによる表面改質

一般的に,金属材料は加工し易いですが,その反面,耐熱性,耐摩耗性,耐食性に問題があります.そこで,これらの特性に優れたセラミックの膜を金属表面にコーティングすることができれば,応用の幅が大きく広がります.ここでは,常温で製膜が可能なガスデポジション法を用いたコーティング技術の確立を目指しています.ガスデポジション法は原料粉末を高速で対象物に吹付けるのみで製膜するため,耐熱性の低い材料にも適用でき,また低コストで環境にも優しい技術と言えます.
概略図 断面

(10) 多素材押出しによる高機能複合鋼管の成形プロセスの開発

優れた耐食性を有すると同時に十分な強度も持つクラッド鋼管が,腐食性の高い環境の石油/ガス拙削・輸送用耐食鋼管,化学工業用配管等に求められています.このようなニーズに対して,ステンレス鋼やNi基超合金を合わせ材として,炭素鋼あるいは低合金鋼の内面に複合化させたクラッド鋼管は,機能性と経済性とを兼ね備えた高付加価値材料として大いに期待されています.本研究では,モデル材料としてのステンレス鋼/炭素鋼クラッド鋼管の新しい成形技術として,提案している多素材押出し法の適用を試みています.高機能・高信頼性・低コストのステンレス鋼/炭素鋼クラッド複合鋼管の押出し成形プロセスを確立することを目指しています.
装置断面
  二層パイプ成形の概略図

(11) 抗ウイルス効果を有するセラミック材料の開発

近年,新型インフルエンザや鳥インフルエンザなどの流行が相次ぎ,ウイルスの脅威がクローズアップされてきています. 最近,優れた抗ウイルス性能を見出され,注目されているのがドロマイトです.ドロマイト(天然鉱物CaMg(CO3)2) は自然界に豊富に存在することから,すでに一部で実用化されていますが,その抗ウイルス特性の起源がまだよくわかっていません.そこで,このドロマイトの抗ウイルス特性に及ぼす種々の要因を調査することで,その抗ウイルス特性の起源を究明し,また,さらなる持続性の向上を目指して新規セラミック抗ウイルス材料の開発を行っています.
原料粉末 製品写真
ドロマイト粉末の写真 ドロマイト利用抗菌マスク(潟c`ガセ)