研究内容

電磁力エアロブレーキング惑星突入技術(Atmospheric Entry by Electrodynamic Aerobraking)

宇宙船が、地球の周回軌道や外惑星探査からの帰還時に地球大気に再突入する際、あるいは、惑星探査ミッションにおいて外惑星大気へ突入する際にも、その突入速度は、数km/s~数十km/sもの超高速になります。この超高速の突入により大気は圧縮され、数千~数万度もの高温プラズマ状態となるため、宇宙船は厳しい加熱に曝されることになります。この過酷な加熱から宇宙船を守るため、これまでは、耐熱タイルやアブレータと呼ばれる断熱材が使用されてきました。しかし、断熱材によって受動的に熱を耐える熱防御は、再利用性がないこと、確実性に乏しいため安全性に問題があること、開発にコストがかかることなど、様々な問題を抱えています。
そこで、能動的に熱を避ける新しい惑星大気突入技術として、”電磁力エアロブレーキング技術”が提案されています。この技術では、宇宙船に磁場発生源(コイルや磁石など)を搭載し、宇宙船の周りに磁場を展開します。この磁場は、プラズマ化した高温気流と干渉して、電磁力を発生させます。発生した電磁力は、高温気流を宇宙船から遠ざける方向に働くため、宇宙船への熱の流入が減少します。さらに、電磁力の反力は、磁場発生源に抗力として作用するため、宇宙船をブレーキングして、突入速度自体を緩やかにすることができます。
そこで、我々は、惑星大気上層の希薄流れ領域から電磁力エアロブレーキングを行い、パラシュートのようにゆっくり惑星大気に突入することで、宇宙船への加熱を抜本的に減少させるシステムの提案を目指して、研究を行っています。特に、最近は、未解明部分が多い上層希薄大気中での電磁力の発生メカニズムの解明を目指し、数値解析(CFD解析、DSMC解析)や、惑星突入環境を模擬するための希薄アーク(プラズマ)風洞(鳥取大学)を用いた実験を駆使して、研究を行っています。


パルスレーザー軌道打ち上げ機 (Pulsed Laser Orbital Launcher)

最近、エネルギー革命を目指した太陽発電衛星建設などの挑戦的計画や小型衛星などの民間利用の加速に伴い、宇宙に大量に物を送る需要が増えています。しかし、従来の輸送手段である化学ロケットは、ペイロード比が小さく(数%程度)、一機あたりの単価も高いため、例えば、H2Aロケットを使用して、標準的な出力の太陽発電衛星を一基建設した場合、その輸送コストは数10兆円もかかると予想されています。
そこで、安価な新しい打ち上げシステムとして、パルスレーザー打ち上げ機が提案されています。このシステムでは、地上のレーザー基地から機体に向け、パルスレーザーを繰返し照射します。レーザーは、機体後部のミラー(空気吸込み式スパイクノズルを兼ねる)により集光され、レーザー支持爆轟(Laser Supported Detonation:LSD)波と呼ばれる強烈な衝撃波が駆動されます。機体は、LSD波がノズル内を伝播する反力により推力を得ます。
このシステムでは、打ち上げ機にエネルギー源を搭載する必要がなく、また推進剤には大気を用いるため、化学ロケットの20倍以上業績の高いペイロード比を達成できると考えられています。さらに、機体構造が簡潔なため、一機あたりの単価が安く、主なコストは電気代だけになります。しかし、初期投資として出力100MW~数GWクラスのレーザー基地の建設が必要であり、その建設費は数千億~数兆円程度かかります。
そこで、我々は、出来る限り低いレーザー強度でパルスレーザー打上げ機を駆動させ、基地建設費を抑えることを目指し、駆動源となるLSD波を低いレーザーパワーで駆動するための研究を、TEA-CO2パルスレーザーを用いたLSD駆動実験および数値解析を駆使して行っています。


連続発振レーザーを用いた惑星突入環境模擬風洞/宇宙推進機の研究 (LSP Wind Tunnel/Space Thruster)

惑星突入環境模擬風洞や、衛星の姿勢制御用の宇宙機推進機として、放電によってプラズマを生成するアークジェット推進機が広く使われてきました。しかし、アークジェットは、プラズマと電極が接する放電機構のため、電極損耗よる気流汚染や、電極への熱損失などが起こります。また、気流の高圧化が難しいという問題もあり、惑星突入環境を正確に模擬できません。また、宇宙推進としては、化学推進よりは比推力(燃費に相当)は良いものの、電極への熱損失は比較的大きく、惑星間航行などの長時間の使用には向きません。そこで、連続発振レーザーを用いて空間中にプラズマを維持し(Laser Sustained Plasma: LSP)、このLSPをノズルで膨張させることで、電極損耗や熱損失から解き放たれた新しい風洞・推進機が提案されています。本研究は、実機開発やプラズマ計測を行っている静岡大学・松井信准教授 との共同研究であり、我々は、このLSP風洞・推進機の効率化・作動条件の最適化を目指して、数値解析を駆使した研究を行っています。


アーク気流エンタルピー計測用の電磁力プローブの開発(Electrodynamic Probe for Arc Flow Enthalpy)

アーク風洞は、惑星突入カプセルの熱防御システムの設計に欠かせない装置です。熱防御システムの設計には、供試体(風洞に投入するの宇宙船の模型)表面の加熱率分布を知ることが重要ですが、そのためには気流のエンタルピー(気流の持つ内部エネルギーと運動エネルギーの和)分布が必要になります。しかし、アーク気流のエンタルピー分布を高精度で計測する方法が確立されていません。唯一、エンタルピー分布を高精度で計測する方法として、供試体前に発生する衝撃層からの発光分光計測を利用する方法が提案されています。しかし、この方法は、衝撃層内が熱平衡状態になっていることを要求するため、一般的に流れが希薄な状態である事が多いアーク気流では、この方法がそのままでは使えません。そこで、我々は、電磁力によって衝撃層を拡大して、熱平衡を能動的に作り出すことで、発光分光によるアーク気流のエンタルピー計測を可能にする新しい手法を開発することを目指しています。本研究は、分光解析手法の提案・開発を行っている鳥取大学・酒井武治教授 およびJAXA との共同研究であり、我々は、エンタルピー計測用の電磁力プローブを開発し、JAXA調布研究開発部門JAXA宇宙科学研究所 の大型アーク風洞を用いた、加熱試験・発光分光計測を行っています。